兵士達には部署がきめられた

 婦人はまた声をあげて、嬉しさとなつかしさをかくそうとせずに泣いた。 兵士達には部署がきめられた。部隊は別れ別れになった。一部は、蛋粉《たんぷん》工場へ向けられた。一部は福隆火柴公司《フールンホサイコンス》へ向けられた。一部は正金銀行へ向けられた。 銃をかつぎ、列伍を組んで、彼等はそれぞれ部隊長に指揮されながら、自分の部署へむかって行進した。 多くの居留民達は、自分達の家とは反対の方向へ列をなして去って行く軍隊を、なつかしげに、いつまでも立って見送っていた。子供達は嬉しげに旗を振りながら、あとにつゞいた。 だが、おとな[#「おとな」に傍点]の居留民達は、出兵請求の決議にかけずりまわり、一ツ一ツ印を集め、懇願書を出して、折角やってきて貰ったなつかしい兵士が、自分達のちっぽけな家とはかけ離れた、工場や銀行の守備に赴くのを、はたして、ペテンにひっかゝったように、憤《いきどお》ろしく、意外に感じなかっただろうか?

[#5字下げ]一六[#「一六」は中見出し]

 三時間の後、工場は、堅固な土嚢塁と、鉄条網と、拒馬《きょば》によって、武装されてしまった。 機関銃が据えつけられた。カーキ服が番をしている。 黄色の軽はく[#「はく」に傍点]土は、ポカ/\と掘り起された。 大陸のかくしゃく[#「かくしゃく」に傍点]たる太陽は、市街をも、人間をも、工場をも、すべてを高くから一目でじり/\睨みつけていた。細い、土ほこりが立つ。火事場の暑さだ。 上衣を取った兵士の襦袢は、油汗が背に地図を画いた。土ほこりはその上に黄黒くたまった。じゃり/\する。「のろくさと、営所に居るように油を取ってはいけない! これは正真正銘の戦時だぞ。」重藤中尉が六角になった眼をじろじろさしてまわった。「おい、そこで腰骨をのばして居るんは誰だッ!」

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