ボロ/\剥げて落ちるような壁

 高取は、一方の壁の傍で苦り切っていた。ボロ/\剥げて落ちるような壁だ。製麺工場の玉田が、何故そんな面をしているのか訊ねた。「貴様、仕事がツライから癪に障っているんか? 虫食ったような顔をしやがって。」「そんなこっちゃないよ。あいつらが、仕様がねえ奴等なんだ。あの、衣笠や松下などのゴマすり連中め。」と、高取は、むッつり云った。「あんな奴等が多いから、支那人は、マッ裸にひきむかれるどころか、肝臓のキモまで掴み取られるんだ。」「あいつらか、うむ。……あいつらは、女の腐れみたいな野郎さ。」「さんざん、工場主や、地主に搾られて居りながら、それでもなお、ペコ/\頭をさげて、尾を振らずにゃいられねえ奴隷だよ。あんな奴等は。」高取は、そばの、助平の西崎をもかえり見た。初物《はつもの》食いで、同一の女郎を二度と買った、ためしがないという男だ。「あんな奴等が一番困りものなんだ。さんざん、ブルジョアから酷使され、搾られ、苦しめられる。それでも、憎むことも、反抗することも知らねえんだ。おべっかを使って、落ちこぼれをめぐんで貰おうと心がけている手あいだ。」「それは、そやけど、ま、ま、ええやないか。あいつらのゴマすりは、今日に始まったこっちゃないやないか。」西崎は卑猥に笑った。「西崎! 貴様も、あいつらの仲間に這入れ! それが似合ってら!」 高取の腕からは、頑固な拳がとび出しそうになった。「そやないよ、そやないよ。ここで、そんなに、おこらんかてええやないか。……そら、衣笠の面相を見ろ、ぬれマラのようやないか。そら、ほんまに、ぬれマラのようやないか。」 西崎は、話のたがをはずしてしまった。むしゃむしゃと向うの入口の方で、こちらの話には気がつかず、鑵肉をつついている厚唇の衣笠は、本当に、ぬれマラという感じだった。玉田は笑った。西崎の助平は有名なものだった。おかしいヒョウキンな奴だ。

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