チャンピーの味をみたい

 彼は、支那へ来たからには、チャンピーの味をみたいと望んでいた。それは、来る前からの望みだった。作業中にも、纏足の前がみをたらした、褐色や紫の支那服を着た女が通ると、そッとそれをぬすみ見た。手や脚が、とてもきゃしゃ[#「きゃしゃ」に傍点]だった。 工場の函詰の女工にも彼の心はひかれた。 それは、美しくはなかった。ホコリと、煙と、燐に汚れていた。しかし、それは、日本人とは、どこかちがっていた。ちがった何ものかを持っていた。 ちがったものが彼に刺戟となった。「何かやってるぞ、おい、工場の奴が、何かやってるぞ。」 飯を食って暫らく休んでいた。一人が、削った軸木を乾してある附近の騒ぎに目をとめた。工人が、思いきったいじめ方をされている。「リンチだ、リンチだ!」 内所《ないしょ》ごとのように柿本が声をひくめた。「なに?」「リンチだ、リンチだよ!」 于立嶺《ユイリソン》という、肩の怒った、皮肉な顔つきの工人が、二人の把頭の腕の下で、頸をしめられた雄鶏のように、ねじられて、片足は、しきりに空を蹴っていた。「監督が、爪の裏へ針をつき刺しているんだ。」 貝形の爪が、指さきの肉と、しっかり膠着《こうちゃく》している。その肉と爪の間へ、木綿針をつきさしている。小指からはじめて、薬指、中指、人さし指に針をつきさゝれていた。二本の手は動かせないように、二人の把頭によって、しっかりと脇の下にからみつけられていた。 工場の騒音をつんざいて、う――うッと唸る声がする。兵士達は、自分の生爪《なまづめ》をもがれるように身慄いした。

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